ララバイ・キャリッジ その壱

shokoza2006-10-22

友人のアーティスト、ルシアの創作したパフォーマンス「ララバイ・キャリッジ」のデュヴァル公演が昨夜おこなわれた。シアトル郊外、車で40分。秋も深まって、広々した牧場に馬・牛がのんびり草を食むところどころに、目の覚めるような黄や朱の落葉樹がみえる。アーティストが多く住む町で、小さいダウンタウンながらカフェ・古本屋・古道具屋、みなセンスがいい。公演に先立つ2度のリハーサルは両日とも雨でだいぶぬれたが、当日は朝からすばらしいお天気になった。

宇宙のどこかにある「光の町」の住人たちが一夜地球を訪れ、子供たちには夢を、大人には童心をプレゼントする・・・というのがルシアのヴィジョン。真っ白な天蓋つきの大きなベッドを引いて、二台の馬車がゆっくりと公園の周りを行く。馬車には3人の「母たち」が乗っていて観客に御伽噺と子守唄をきかせる。公園の中では、時計の親子が「チック、タック、チックタック」等とつぶやきながらホームドラマを展開、私たち4人の馬のお母さんは乳母車を押してプロムナードをゆっくり下りたそがれ時に「夜を招くダンス」をするのだった。そのほか、いろいろなものが絡まった長い白いひげの「いびきおじさん」たち、宿無し鳥の親子。何もかも白ずくめである。馬は首のところに穴をあけた真っ白な馬の頭をかぶり、ヴィクトリア朝のドレス。頭は一メートル位あるので、「ぺリパーソナル・スペース」はぐっと広がる。ほかの人たちも豆電球入りの、奇妙な形の大きな帽子をかぶっている。これらがみんな、ルシアの創作なのである。

ガブリエル・フォーレチェロソナタで公園のあちこちから入場し、ルシアがいくつかララバイを歌ったあと、ピアソラのスローなタンゴで馬のダンス。つるべ落としで日が落ちる時に激しい馬のいななきのようなチェロの音を合図に速いテンポのタンゴになり馬が野生に帰ったギャロップで円を描いて走ると、夜が訪れた。乳母車の中には、ライトがついて明るいが、一歩先は闇。吐く息が白い。いつの間にか、霧が立ち込めてきている。ダンスのあとは今までどおり、プロムナードをいったりきたり。子供たちが、恐る恐る乳母車を除きに来る・・・中身はライトと、ぬいぐるみの熊ちゃんなのだが。その表情のかわいいこと。
 
ドビュッシーの月の光とともに、星たちが登場。張子の星が10メートルくらいの黒い棒の先について、黒子が担いで歩くのだが、この星がレースのテーブルかけでできているので、明かりがつくとまことに優雅できれい。母と一緒に作るのを手伝ったので、「あれと、あれが作ったやつだ・・・。」と感慨深くながめる。流れる霧の上を漂う星たち、その背後には、下から照らされて、黄金色した大きな木が一本。夢幻の世界にひきこまれてしまう。

2時間ほどでフィナーレとなり、馬車の後ろをみんなで「ブラームスの子守唄」を歌いながら歩いて退場するころにはとっぷりと暮れていた。

雨に降られっぱなしのリハーサル、何日もボランティアで衣装を縫ったり、ペンキを塗ったり。また本番まで振り付けも決まらず(音楽が決まってなかったので)ほとんどが即興だったことなど、結構大変だったが面白い経験だった。キャシー(マデン)先生がヴィクトリア朝の白いレースの寝巻きを着て、おかしな帽子をかぶって、メガホンで采配を振るっているなんて普段見られない姿も楽しかったし。それにしても35人のスタッフと、かなり神経のとがっているルシアと、その全体を取りまとめ動かして、かなり混沌としていたのを本番では形にしてしまった、キャシーの手腕に改めて脱帽した。