道化師二人の無言劇

ベルギーからきた「オッキ・ドッキ」という二人組みピエロのパフォーマンスをみた。まず衣装がよい。昔ながらの白いピエロ服が、荒い木綿地でとくべつだぶだぶにつくられていて、かわいい。人生に疲れ果てたような、半分はげ、半分白髪のやせこけたおじさんピエロ(グレイの付け鼻)と、元気のあまってそうな体格のいい若者ピエロ(赤の付け鼻)の組み合わせもよい。小道具は、段ボール箱8個だけである。この箱を持ってきて積む行為をめぐって、いろいろすったもんだを、無言で繰り広げるが、始まってしばらくは、おじさんピエロが、いやいやそうにつまらなそうにやる、のがみょーに面白い。この出し物は、「シアトルチルドレンズフェスティバルの一部なので、観客はこどもづれが多く、ここらで退屈した幼児がうわ〜んとごねる。おじさんピエロは、花がさいたのをみるようにそっちをみて、ウワ〜んとちっさな声でまねる。それから、若い方も出てきて、活気づいてくるのだが、ふたりとも4歳以下の観客に大うけで、さっきないてたのもけらけら笑っている。見てるひとみんなが、彼らのさりげない注意の範囲内にふくまれているのがよくわかる。私の先生のキャシーが、うまいパフォーマーはその場で起こっていることを全て使うのよ、といつもいっているが、そのとおりのことが起こっていた。さて、せっかく二人で協力して積み上げた箱が、おじさんの不注意で崩れてしまう。若い方がおこって、わざとらしく大きなため息をつく。(こういうのを英語でpassive aggresiveという。受動的暴力というのか、昔から弱者の武器であるが、結構無意識に習慣的に使っていることも多い。)ため息をつくたびにどんどん背がちぢんでいってしまう。背中が半分におれまがったところで、相棒が、靴の先(ピエロの馬鹿でかい靴の)を何度か踏むと、踏むたびに空気を入れたようにまた背が伸びて、かれの気分もよくなるのだった。そして、同じようなことが起こり、またもため息とともに縮んだ彼は、今度は、自分で、自分の靴を踏んで、立ち直るのである。