ジルの誕生日

ジルさんとの出会いは、故高老師を通じてである。シアトル在住中の高老師の身の回りのこと、特に病院・銀行・ヴィサ・弁護士との関係を一切引き受けてお世話していた。なくなる前の二年間は、高老師と一緒に私とハリソンと、推手を練習した。亡くなってからは、遺産相続等で連日ハリソンと電話のミーティングが3月ほど続いた。そして今現在、彼女は、道教学院の理事長さんである。セラピストが本業の彼女は、いつ見てもどっしりと落ち着いて、いかにも頼りになりそう。そして実際たよれるひとなんである。地に足がついたひとである。先日書いたキャロルもそうだが、ジルもユダヤ人。口八丁・手八丁、そこはかとないユーモアのセンスで、難しい事態も切り抜けていく。シングル・マザーで、女でひとつで二人の子を育てながら、大学院を出てセラピストになり、その子供たちも結婚していまはシアトル室内楽ソサエティの理事と、道教学院の理事長として、私たちみんなのお世話役をかってくれている。ジルに誘われて、去年の七月とてもすばらしい、ラヴェル弦楽四重奏曲の演奏を聞いた後、翌朝だったが、筆ペンでその印象を描いた。その絵が今年、この室内楽ソサエティ25周年記念のポスターに使われることになり、縁は異な物、私たちの関係も一段と向上したようだ。60歳の誕生日祝いに招待されて、でかけていった。
 その朝は、例によってコラージュのプレゼントを作る。古いほうの辞書をひいてみると、JILLとは、SWEETHEARTとある。本人にぴったりの定義。親切な、心のやさしい人といった意味である。太極拳をやってるから、円のイメージ。シンコペーションの挿絵から、しだが生えている。というふうに貼り付けていく。
 会場のレストランは、息子さんの級友のシェフが最近オープンしたばかり。全て、ローカル有機栽培の素材で、ビストロ風料理。大皿に10種類ほどのいろんなおいしいものがあった。なかでも、たいのお刺身サラダにビ−ツを添えたのや、カリフラワーのチーズ焼き、大アサリのワインむしなど気に入った。前菜には、とれたてのぜんまいの酢の物風が珍しかった。しだ類のことをFURNというのだが、ちょうど絵の中にも入っていたので、うれしくなってしまった。女の人ばかり14人のパーティで、おしゃべりと食べるのに大忙し。たのしい宵はゆっくりとふけていった。