辞書の効用

アレクサンダー教師で詩人のキャロルの、70歳の誕生日に招かれた。夏時間に変わった、日曜日の午後のこと。午前中、プレゼントをつくる。10センチ四方の額に、コラージュ作品を入れて、額としても、コースターとしても使えるのにしよう。画用紙を額の中身にあわせて切り、さてなにを貼ろうかな。思いついたのは、10余年ばかり前ガレージセールで一ドルだった、ウェブスターの高校生用辞書、1911年初刊。学生用なので、かわいい挿絵がいっぱいついている。まずは、詩人、詩、を引いてみてその項を切り取り背景にする。グレイがかったクリーム色のデリケートな紙質、端っこが、薄紅に着色してある。これで自然なアクセントになる。
 次に、「キャロル」でひいてみた。意外なことに、いくつかの意味がでてきた。なぜ意外だったかというと、キャロルというのがかなり一般的な名前だからである。そうか、どんな名前でも意味があるんだ。当たり前のことなのに、考えても見なかった。当たり前すぎて、考えがおよばなかった、というべきか。
 キャロルというと、クリスマス・キャロルというように、「歌でお祝いする」cereblate with songsという意味があった。これだ!彼女は、最近歌のレッスンにいっている。歌うことにコンプレックスがあるらしい彼女が、キャシーの教室で声を使うときの自分の使い方を習う姿にはこころうたれるもの。早速、赤ペンで二重線をひく。キャロルの横に、プロファイル、女の横顔が影絵になったものを貼り付ける。影絵の下に小さくprofileときれいな活字がはいっている。画面の下には、スィートピーがつるを伸ばしている絵を貼る。薄い紙なので、「詩」とは何かという意味が透き通って見える。
 出来上がりは、われながら、きれいでうれしくなってしまった。彼女もよろこんで、私の両手をぎゅっと握ってくれた。さらに、お誕生日会場には3人もほかのキャロルが来ていて、辞書にもこんな効用があったのね!私もぜひ使わせてもらうわ、というわけだった。